薬局の在宅訪問の始め方
―小さく始めて段階的に拡大する3ステップ戦略―

「完璧な体制を整えてから」と思っていませんか?人手不足の小規模薬局でも、準備期・開始期・拡大期の3フェーズで無理なく在宅訪問を始められる具体的な方法を解説します。

2026年2月4日公開

「在宅訪問を始めたいけれど、24時間対応できる人員もいないし、完璧な体制が整わない」。そう考えて、在宅参入を先延ばしにしている薬局経営者の方は少なくありません。

しかし、在宅訪問で成果を上げている薬局の多くは、最初から完璧な体制を整えていたわけではありません。「小さく始めて、段階的に拡大する」戦略をとり、無理なく在宅訪問体制を構築しています。

本記事では、小規模薬局が在宅訪問を始めるための具体的な3ステップ(準備期・開始期・拡大期)を解説します。この記事を読めば、「何から手をつければいいか」が明確になり、明日から在宅参入の準備を始められる道筋が見えてきます。



1. なぜ「完璧な体制」を待っていると在宅参入が遅れるのか

1-1. 多くの経営者が陥る「完璧主義の罠」

在宅訪問に参入できない薬局の経営者から、よくこのような声を聞きます。
 「24時間対応できる人員を確保してから始めたい」
 「在宅経験が豊富な薬剤師を採用してから」
 「無菌調剤室を整備してから」

こうした「完璧な体制を整えてから始めよう」という考え方は、一見すると慎重で堅実に見えます。しかし実際には、この考え方が在宅参入を大幅に遅らせる「完璧主義の罠」となっているケースが少なくありません。

さらに、2026年調剤報酬改定でも在宅訪問実績のない薬局への評価は厳しくなることが予想されています。「いつか始めよう」では間に合わない時代に突入しているのです。

1-2. 在宅訪問は「段階的に拡大する」のが成功の鍵

実際に在宅訪問で成果を上げている薬局を見ると、最初から完璧な体制を整えていた薬局はほとんどありません。多くの薬局は「小さく始めて、実績を積みながら段階的に拡大する」という戦略をとっています。

在宅参入の鍵は、「業務をどう設計し、ICTをどう活用して効率化するか」という経営者の意思決定にあるのです。

2. 小規模薬局が在宅訪問を始める3ステップ戦略

在宅訪問を無理なく始めるには、「準備期・開始期・拡大期」の3フェーズに分けて、段階的に体制を構築していくことが重要です。

2-1. 【準備期】訪問ゼロでもできる体制整備

準備期は、実際の訪問を開始する前に、必要な届出や契約書の整備、ICT基盤の構築を行うフェーズです。この段階では訪問実績ゼロでも進められる作業に集中します。

準備期で取り組むべき3つのこと

①法的な届出・体制整備
在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定するためには、地方厚生局への「在宅患者訪問薬剤管理指導」の届出などが必要です。
また、患者との契約書・同意書、医師への情報提供文書、訪問記録のフォーマットなど、必要な書類を事前に整備しておきます。これらの書類は各都道府県薬剤師会のホームページなどでひな形が公開されているため、それを参考に自薬局用にカスタマイズすると効率的です。

②ICT基盤の構築(クラウド型電子薬歴の導入)
在宅訪問では、「訪問先でも薬歴を記載できる環境」を整えることが重要です。従来の薬局内のみで使える電子薬歴では、訪問先で記録したメモを薬局に戻ってから改めて入力する必要があり、二度手間が発生してしまいます。
クラウド型電子薬歴なら、訪問先でもリアルタイムで薬歴を記載でき、「薬局に戻ってから薬歴を書く」時間が不要になります。

『CARADA 電子薬歴 Solamichi』
インターネット環境があれば、訪問先でも自宅でも薬歴作成が可能。在宅訪問用にタブレットを追加しても、月額費用は変わりません。

③地域の医療機関・ケアマネジャーへの周知
地域の訪問診療クリニック、訪問看護ステーション、ケアマネジャーに、挨拶状の送付や直接訪問で「在宅訪問に対応できる薬局」として認知してもらいます。「まずは日中・平日のみの対応から始めます」と率直に伝えることで、地域の医療・介護関係者からの信頼を得られます。

2-2. 【開始期】日中・平日のみの訪問開始で実績を積む

準備期で体制が整ったら、いよいよ実際の訪問を開始します。開始期では、無理のない範囲で訪問実績を積み上げることに集中します。

開始期で取り組むべき3つのこと

①まずは月2〜3件、日中・平日のみの訪問から開始
最初から多くの訪問依頼を受けようとする必要はありません。まずは月2〜3件、日中・平日の開局時間内に訪問できる患者から始めます。薬局から近い場所で薬剤管理が比較的シンプルな患者を優先すると、薬剤師の負担が少なく、スムーズに訪問業務に慣れることができます。

②年間24回の実績を積み、地域支援体制加算の要件クリアを目指す
地域支援体制加算の要件である「単一建物診療患者が1人の場合の在宅患者に対する薬学的管理及び指導の実績が直近1年間で24回以上」を満たすことが、開始期の重要な目標です。月2件の訪問を継続すれば、年間24回の実績は十分に達成可能です。

訪問を重ねる中で、患者や家族からの信頼が深まり、医師やケアマネジャーとの連携もスムーズになっていきます。また、薬剤師自身も在宅特有の薬学管理(残薬管理、副作用モニタリング、服薬支援方法の提案など)のスキルが向上していきます。

③ICT活用で訪問先での業務効率化
開始期で重要なのは、ICTを活用して訪問業務を効率化することです。AI音声入力機能を活用すれば、訪問先での患者との会話を録音し、AIが自動で薬歴に必要な情報を抽出・要約してくれます。

『AI音声入力機能』
訪問先での患者との会話を録音すると、AIが自動で薬歴に必要な情報を抽出・要約してくれます。「薬局に戻ってから残業して薬歴を書く」という負担が解消されることで、薬剤師の働きやすさも向上します。

2-3. 【拡大期】オンコール体制の構築と24時間対応へ

開始期で訪問実績が安定してきたら、拡大期に移行します。訪問件数を増やし、在宅薬学総合体制加算の算定や24時間対応体制の構築を目指します。

拡大期で取り組むべき3つのこと

①訪問件数を増やし、在宅薬学総合体制加算を目指す
訪問実績が積み上がり、地域からの信頼が高まると、医療機関やケアマネジャーから新たな訪問依頼が増えてきます。月2〜3件だった訪問が、月5〜10件へと自然に増えていきます。

在宅薬学総合体制加算を算定するには、在宅訪問の体制整備が必要です。具体的には、24時間対応体制の構築、麻薬の取り扱いなどが求められます。これらの要件を段階的にクリアしていくことで、より手厚い報酬を得られるようになります。

②オンコール体制の構築
24時間対応を実現するには、夜間・休日のオンコール体制の構築が必要です。ここで重要なのが、「誰が対応しても同じ質の薬学管理ができる」体制を整えることです。

『ファムケア』
報告書作成の効率化(訪問先で報告書を作成し、その場でFAX・PDF・メール送信)や、リアルタイムな情報共有(薬局内・訪問先・オンコール担当者が患者情報をリアルタイムで共有)が可能になります。

③24時間対応へ段階的に移行
オンコール体制が整ったら、24時間対応を開始します。

24時間対応を始めることで、在宅薬学総合体制加算の算定など、より手厚い報酬を得られるようになります。また、24時間対応できる薬局として地域で認知されることで、医療機関やケアマネジャーからの信頼がさらに高まり、新たな訪問依頼が増えるという好循環が生まれます。

3. まとめ:在宅訪問は「いつ始めるか」ではなく「どう始めるか」が重要

本記事で解説した「準備期・開始期・拡大期」の3フェーズで進めることで、小規模薬局でも無理なく在宅訪問体制を構築できます。各フェーズでICTを効果的に活用することで、人手不足を補い、業務を効率化しながら、段階的に訪問件数を増やしていくことが可能です。

在宅参入の鍵は、人手不足の解消ではなく、「業務をどう設計し、ICTをどう活用するか」という経営者の意思決定にあります。

在宅訪問は「いつ始めるか」ではなく「どう始めるか」が重要です。「地域で選ばれ続ける薬局」になるために、明日から、準備期の第一歩を踏み出してみませんか?

この記事の筆者

大学卒業後、薬剤師として薬局に8年間勤務。管理薬剤師として現場のマネジメントも経験する。その後、地方自治体へ転職し、公務員薬剤師として薬事行政業務に携わる。

現在は薬剤師ライターとして、薬局業務に関する情報をお届けしています。薬局での現場経験と、行政側から薬局を見てきた経験という二つの視点を活かし、制度解説から経営改善、さらには日々の業務効率化やスキルアップまで、薬局の実務に直結する情報をわかりやすく伝えることを大切にしています。

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