「患者さんが本当は何を思っているか知りたい」というあなたへ。明日から使える質問例と対話のポイントを具体的に解説します。
2025年11月26日公開
前回の記事では、薬剤師と患者さんの信頼関係がなぜ重要なのか、そして関係づくりが薬局経営にもたらすメリットについて解説しました。しかし、いざ現場で実践しようとすると、「患者さんが本音を話してくれない」「表面的な会話で終わってしまう」と悩むことも多いのではないでしょうか。
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本記事では、患者さんが本音を話しづらい理由を整理した上で、本音を引き出すための具体的な質問方法を解説します。オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの使い分けや、場面別の質問例、避けるべきNG例まで実践的にまとめました。
この記事を読めば、明日からの服薬指導で使える質問のコツがわかり、患者さんとの信頼関係を深めることができます。
患者さんとの対話で「はい、飲んでいます」「特に問題ありません」という表面的な返答が続き、本音が見えないと感じることはないでしょうか。患者さんが本音を話してくれない背景には、いくつかの理由があります。
患者さんが本音を話しづらい主な理由として、以下の3つが挙げられます。
患者さんは「忙しそうだから質問しづらい」「こんなこと聞いていいのかな」と遠慮してしまうことがあります。特に混雑した薬局では、薬剤師が忙しそうにしている様子を見て、相談を諦めてしまうケースも少なくありません。
「飲み忘れが多い」「副作用があっても我慢している」といった状況を正直に話せない患者さんもいます。特に、真面目な性格の患者さんほど、理想的な服薬ができていない自分を責めてしまい、本当のことを言えなくなる傾向があります。
患者さん自身が、自分の感じている違和感や不安を言語化できないこともあります。「なんとなく調子が悪い」「説明されたけどよくわからなかった」といった漠然とした感覚を、どう伝えればいいのか迷ってしまうことがあります。
患者さんが本音を話しづらい理由は、患者さん側だけにあるわけではありません。薬剤師側の対応が、無意識のうちに「壁」を作っていることもあります。
たとえば、確認事項をチェックリストのように淡々と質問していないでしょうか。「副作用はありませんか?」「ちゃんと飲めていますか?」といった閉じた質問を機械的に投げかけるだけでは、患者さんは「はい」「いいえ」でしか答えられません。
また、専門用語を多用した説明や、患者さんの話を途中で遮って結論を急ぐ態度も、患者さんが話しにくさを感じる要因となります。
つまり、本音を引き出すためには、まず薬剤師自身が「患者さんの話を聞く姿勢」を整えることが大切なのです。
患者さんの本音を引き出すには、質問方法を工夫する必要があります。ここでは、質問の基本となる「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」について解説します。

質問には、大きく分けて2つのタイプがあります。この2つの質問タイプを理解し、場面に応じて使い分けることが、本音を引き出す第一歩となります。
「はい」「いいえ」や、限定的な選択肢で答えられる質問を指します。事実確認や情報の絞り込みに有効ですが、患者さんの詳しい状況や感情は引き出しにくいという傾向があります。
例:「副作用はありませんか?」「毎日飲めていますか?」
患者さんが自由に答えられる質問を指します。患者さんの考えや感情、具体的な状況を引き出すことができ、本音に近づきやすいのが特徴です。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンは、どちらが優れているというわけではなく、場面に応じて使い分けることが重要です。
事実確認が必要なとき(例:「アレルギーはありますか?」)
クローズドクエスチョンで会話を始め、オープンクエスチョンで深掘りしていくのが、対話の基本の流れです。この使い分けを意識することで、患者さんとの対話の質が大きく変わります。
ここでは、実際の服薬指導で使える具体的な質問例を、場面ごとに紹介します。
初回来局時は、患者さんの生活背景や価値観を知る重要な機会です。以下のような質問を通じて、患者さんの状況を丁寧に把握しましょう。
これらの質問により、患者さんの生活リズムや、服薬に対する心理的なハードルを理解することができます。
服薬指導では、副作用の有無や服薬状況を正確に把握することが求められます。しかし、クローズドクエスチョンだけでは表面的な情報しか得られません。以下のようなオープンクエスチョンを組み合わせましょう。
特に「どんなふうに」「何か変化は」といった表現は、患者さんが具体的なエピソードを話しやすくなります。
継続的な服薬をサポートするフォローアップでは、患者さんの小さな変化や困りごとを見逃さないことが大切です。
フォローアップ時には、前回の会話内容を覚えていることを伝えることで、「この薬剤師さんは私のことを気にかけてくれている」という信頼感が生まれます。

「CARADA 電子薬歴 Solamichi」のAI音声入力機能を用いると、患者さんとの会話を正確に漏らさず記録できるため、その内容を次回の服薬指導に確実につなげることができます。
質問の仕方次第では、患者さんが萎縮してしまったり、本音を話しにくくなったりすることがあります。ここでは、避けるべき質問パターンとNG対応を紹介します。
このような質問は、患者さんに「『はい』と答えなければいけない」というプレッシャーを与えてしまいます。本当は飲み忘れがあっても、「はい」と答えざるを得なくなり、本音が引き出せません。
一度に複数の質問をされると、患者さんはどれから答えればいいのか混乱してしまいます。質問は一つずつ、ゆっくりと投げかけることが大切です。
専門用語を使うと、患者さんは質問の意味が理解できず、答えられなくなってしまいます。「お腹の調子はいかがですか?」「お薬は毎日飲めていますか?」といった、わかりやすい言葉で質問しましょう。
患者さんが話し始めたときに、結論を急いで話を遮ってしまうことがあります。これでは、患者さんは「この人は私の話を聞いてくれない」と感じ、次から本音を話さなくなります。患者さんが話し終えるまで、じっくりと耳を傾けましょう。
「それはダメですよ」
患者さんが正直に服薬状況を話したときに、否定的な反応を示すと、次から本当のことを言わなくなってしまいます。まずは「話してくれてありがとうございます」と受け止め、一緒に解決策を考える姿勢を見せることが大切です。
質問をしたにもかかわらず、患者さんの回答を待たずに説明を続けてしまうことがあります。これでは質問した意味がありません。質問をしたら、患者さんの回答をしっかりと待ち、その内容に応じた対応を心がけましょう。
患者さんの本音を引き出すためには、質問方法を工夫することが不可欠です。オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを場面に応じて使い分け、患者さんが話しやすい雰囲気を作ることで、表面的な会話から一歩踏み込んだ対話へと変わります。
また、誘導的な質問や専門用語の多用、患者さんの話を遮る対応を避けることも重要です。質問を変えれば、患者さんとの信頼関係はより深まっていきます。明日からの服薬指導で、ぜひ本記事で紹介した質問例を実践してみてください。