「何を質問するか」に意識が向きがちですが、患者さんとの信頼関係を築くには「どう聴くか」が何より重要です。傾聴の実践法を、現場での工夫とともに解説します。
2025年12月3日公開
前回の記事では、患者さんの本音を引き出すための質問のコツを解説しました。しかし、質問の仕方を工夫しても、患者さんの話を受け止める姿勢がなければ信頼関係は築けません。
服薬指導では「何を質問するか」に意識が向きがちですが、患者さんが心を開いてくれるかどうかは、むしろ「どう聴くか」にかかっています。患者さんの話を最後まで聴き、その気持ちをしっかり受け止めることが、信頼関係の土台となります。
本記事では、傾聴力を高めるための具体的なポイントと、患者さんの気持ちを受け止める言葉や姿勢、そして忙しい現場でも実践できる工夫について解説します。この記事を読めば、明日からの服薬指導で患者さんとの対話が変わります。
「次に何を質問しよう」と考えながら患者さんの話を聴いていることはないでしょうか。質問のテクニックを意識することは大切ですが、それ以上に重要なのが、患者さんの話に真摯に耳を傾ける姿勢です。
傾聴とは、相手の話に耳を傾け、言葉だけでなく、その裏にある気持ちや状況を理解しようとするコミュニケーションの方法です。
患者さんは、自分の話をしっかり聴いてくれる相手には心を開き、本音を話しやすくなります。たとえば、患者さんが「薬を飲むのを忘れることがあって…」と話し始めたとき、すぐに「毎日決まった時間に飲むようにしてください」と指導するのではなく、まずは「忘れてしまうことがあるんですね」と受け止める姿勢を示すことが大切です。
患者さんは、自分の状況を否定されずに受け止めてもらえたと感じると、「実は、朝はバタバタしていて…」といった、より具体的な背景を話してくれるようになります。傾聴は、患者さんの本音への扉を開くカギなのです。
前回の記事で学んだオープンクエスチョンやクローズドクエスチョンは、患者さんの話を引き出すための有効な手段です。しかし、「何を質問するか」ばかりに意識が向いてしまうと、かえって患者さんの話を本当の意味で聴けなくなってしまいます。
たとえば、「お薬を飲んでみて、何か気になることはありますか?」と質問したとき、患者さんが「特にないです」と答えたら、すぐに次の質問に移っていないでしょうか。「副作用はありませんか?」「飲み忘れはありませんか?」と立て続けに質問することに意識が向いてしまうと、患者さんの小さな表情の変化や、「特にないです」という言葉の裏にある迷いや不安に気づけなくなってしまいます。
質問を重ねること自体は悪いことではありませんが、患者さんの答えを受け止めずに次の質問に進んでしまうと、患者さんの本当の状況や気持ちを見逃してしまいます。質問した後の「聴く姿勢」こそが、患者さんの本音を引き出し、信頼関係を決定づけるのです。
傾聴力は、意識と実践によって高めることができます。ここでは、明日からすぐに取り組める3つのポイントを紹介します。

傾聴の第一歩は、患者さんの話を最後まで聴くことです。忙しい現場では、患者さんの話の途中で結論を急ぎたくなることもありますが、話を遮ることは「あなたの話は重要ではない」というメッセージを送ることになってしまいます。
患者さんが話し終えるまで、じっくりと耳を傾けましょう。たとえ話が長くなったとしても、患者さんは自分の話を最後まで聴いてもらえたという体験を通じて、「この薬剤師さんは信頼できる」と感じるようになります。
また、患者さんが言葉に詰まったり、沈黙が生まれたりしても、焦らずに待つことが大切です。沈黙を恐れず、患者さんのペースに合わせましょう。
傾聴は、ただ黙って聴いていればよいというものではありません。患者さんに「あなたの話をしっかり聴いていますよ」というメッセージを伝える必要があります。
そのために有効なのが、相づちです。「はい」「そうなんですね」「なるほど」といった相づちを適度に挟むことで、患者さんは自分の話が相手に届いていると感じます。また、患者さんを見て、うなずきながら話を聴く姿勢も重要です。
相づちの一つとして、患者さんの言葉を繰り返す「リフレクション」も効果的です。たとえば、患者さんが「最近、めまいがすることがあって気になっているんです」と話したら、「めまいが気になっているんですね」と繰り返します。これだけで、患者さんは自分の話がしっかり受け止められたと感じ、安心して話を続けられるようになります。
患者さんが話しやすい雰囲気を作るには、相手のペースに合わせる「ペーシング」が有効です。ペーシングとは、患者さんの話す速度や声のトーン、姿勢、表情などに自然と合わせることで、患者さんに安心感を与え、心理的な距離を縮める方法です。
たとえば、患者さんがゆっくりと話している場合は、こちらも落ち着いたペースで応答し、患者さんが不安そうな表情をしている場合は、こちらも穏やかで心配そうな表情で寄り添います。逆に、患者さんが明るく話している場合は、こちらも笑顔で応じることで、対話がより自然になります。
ペーシングは、意識的に「合わせよう」とするよりも、患者さんの状態をよく観察し、自然に寄り添うことが大切です。患者さんは、自分のペースを尊重してもらえていると感じると、リラックスして本音を話しやすくなります。

「CARADA 電子薬歴 Solamichi」の「AI音声入力機能」を活用すると、患者さんとの会話を自動で録音・要約し、SOAP形式で記録できます。薬歴入力の負担が減り、患者さんとの対話に集中できる環境が整います。
傾聴を通じて患者さんの話を聴いた後は、その気持ちを受け止める言葉や反応が重要になります。ここでは、患者さんに安心感を与える言葉の例と、避けるべきNG例を紹介します。
「受け止める」とは、患者さんの話や気持ちを否定せず、そのまま受け入れることを意味します。これは、患者さんの行動や考えに賛成するという意味ではなく、「あなたがそう感じているということを理解しました」と伝えることです。
患者さんの気持ちを受け止める言葉には、以下のようなものがあります。
患者さんが不安を口にしたとき
「不安に感じられているのですね」
患者さんが困難な状況を話したとき
「お忙しい毎日の中で大変でしたね」
患者さんが服薬状況を打ち明けたとき
「そういうこともありますよね。一緒に考えてみましょう。」
言葉を受け止めることで、患者さんは「この人は私を責めない」と感じ、心を開いてくれるようになります。その後に「何か工夫できることがあるか、一緒に考えてみましょうか」と提案することで、患者さんは前向きに解決策を考えられるようになるのです。
患者さんの気持ちを受け止めるつもりが、かえって心を閉ざしてしまう反応もあります。以下のようなNG例には注意しましょう。
このような言葉は、患者さんを責めているように聞こえ、次から本当のことを話してくれなくなります。
励ましのつもりでも、患者さんの個別の状況や気持ちを軽視していると受け取られる可能性があります。
患者さんが話しているのに、話題を自分に引き寄せてしまうと、患者さんは「この人は私の話を聴きたいわけじゃないんだ」と感じてしまいます。
「傾聴が大切なのはわかるけど、現場は忙しくて時間がない」と感じる薬剤師も多いでしょう。しかし、傾聴は時間の長さよりも「質」が重要です。短時間でも、以下のような工夫で信頼関係を築くことができます。
「傾聴が大切なのはわかるけど、現場は忙しくて時間がない」と感じる薬剤師も多いでしょう。しかし、傾聴は時間の長さよりも「質」が重要です。短時間でも、以下のような工夫で信頼関係を築くことができます。
患者さんの話を聴きながら説明をしようとすると、どちらも中途半端になりがちです。まずは患者さんの話を聴く時間を確保し、その後に説明や情報提供を行うという流れを意識しましょう。
時間がないときは、「今日は時間が限られていますが、次回またゆっくりお話を伺いますね」と伝えることで、患者さんは「この薬剤師さんは私の話を聴いてくれる人だ」と感じます。そして次回来局時には、「前回お話しされていた○○の件、その後いかがですか?」と声をかけることで、継続的な信頼関係が生まれます。
患者さんとの信頼関係を築くには、「何を質問するか」も大切ですが、それ以上に「どう聴くか」が重要です。患者さんの話を最後まで聴き、相づちや表情で受け止めている姿勢を示し、患者さんの言葉を繰り返すことで、患者さんは心を開いてくれます。
また、患者さんの気持ちを否定せず受け止める言葉を使い、忙しい現場でも短時間で質の高い傾聴を実践することができます。傾聴は、長時間を要するものではなく、日々の意識と姿勢の積み重ねです。
本記事で紹介したポイントを意識し、明日からの服薬指導で患者さんの話をしっかり受け止める姿勢を実践してみてください。あなたの「聴く姿勢」が、必ず患者さんとの信頼関係を深めていきます。